「なんであんなに大雨になった?」「線状降水帯って何?」→ 宮本研
「どう備えたらいい?」「情報はどこから得られる?」→ 大木研
日本のどこでも起こりうる現象です.ひと事と思わず,今からでも備えてください.
宮本研究会(気象)による解説
2020年7月4日から九州をはじめとした広い範囲で記録的な豪雨が発生しました。今回の豪雨は線状降水帯によるもので、南から暖かく湿った空気が梅雨前線に入り混んだために、広範囲に集中豪雨をもたらしたと考えられています。
そこで、今回は線状降水帯とはどのようなものなのか、また、その発生要因や背景にある梅雨前線について、私たち宮本研は迫っていきます。
線状降水帯とは?
線状降水帯の明確な定義はまだありませんが、見た目の特徴として降水域が線状になっていることを表し、複数の積乱雲の集合体である(津口 2016)ことをいいます。様々なタイプの形態があるとされ(瀬古 2010)、形成メカニズムも形態によって様々です。
そのうちの一つに、バックビルディング型といって、個々の積乱雲が風上側で次々に発生して発達することにより(図1)、強い降水が同じ地域に停滞し、持続的な降水となり、集中豪雨につながるものがあります。
線状降水帯はいつどこでできるの?
集中豪雨につながることが多い線状降水帯ですが、いつ、どこにできるのでしょうか?線状降水帯が発生する条件は主に4つあります。
地上付近に暖かく湿った空気が継続して大量に入ってくるとき
前線や地形の効果により、暖かく湿った空気が自分の力でさらに上昇できるようになるとき
大気の状態が不安定で、対流が起きやすい状態になっているとき
積乱雲を動かす上層の風と水蒸気を運ぶ下層の風の速度差が、個々の積乱雲が絶え間なく発生して発達するのに十分なほど大きいとき
以上4つが線状降水帯を発生させる環境要因となります。
条件2.で挙げたように、今回の線状降水帯の形成には梅雨前線との関わりがとても重要であるとされていて、南側の湿った空気が梅雨前線に入り込んだ事で線状降水帯の形成に繋がったと考えられています。そこで、梅雨前線とはそもそもどのようなものなのか、解説していきたいと思います。
梅雨前線とは?
梅雨前線とは、オホーツク海気団と小笠原気団の境界にできる停滞性の前線のことをいいます(図2)。梅雨前線の南側は暖かくて湿った気団があるために、対流ができやすく、大気が不安定となり、時には湿舌(しつぜつ)と呼ばれる、水蒸気量の多い突出域が発生することがあります(図3)。
また、梅雨前線の特性の1つとして大雨が生じている場所の付近の700~900hPa(高度1km~3km程)に局所的に西南西〜南南西の強風である下層ジェットと呼ばれている風が観測されることがあります。
天気図と衛星画像から今回の九州豪雨を見てみよう
これまで線状降水帯と梅雨前線について説明してきました。ここでは、それを踏まえ、今回記録的な降水量が観測された2020/7/7における午前9:00の時点での、地上天気図、水蒸気画像、高層天気図をみることで、今回の豪雨発生要因について考察していくことにします。
画像から得られる大きな特徴は以下の3点です。
日本の東から南にかけて発達している高気圧(太平洋高気圧)と中国大陸にある高気圧の勢力が拮抗し、梅雨前線は身動きが取れなくなり西日本の北側に停滞している。(図4)
太平洋高気圧の外縁(図4内,太平洋高気圧中心付近の黒太線から左に2本目の線)に沿って大量の水蒸気が西日本に供給されている。(図5)
850hPa高層天気図に、下層ジェット(西南西〜南南西の35kt以上の強風)が見られる(図6)
図4 「天気図(実況・予想)」(気象庁ホームページより)を加工して作成
図5 「気象衛星」(気象庁ホームページより)を加工して作成
図6 「高層天気図」(気象庁ホームページより)を加工して作成
以上より、今回の記録的な豪雨は、停滞している梅雨前線に南から暖かく湿った空気が入りこんで、線状降水帯が発生したことにより、広範囲に渡ったと考えられます。先にも述べましたが、線状降水帯はあくまでも見た目の特徴を表しているに過ぎず、集中豪雨の全てを説明しているわけではありません。宮本研では引き続き、今回の記録的豪雨に関する分析を続けていきたいと考えています。
大木研究会(防災)からの防災便利サイト紹介
宮本研が書いてくれた解説の通り,九州や東海地方などに水害をもたらした線状降水帯は,積乱雲が絶え間なく発生・発達し続けられる状態になって同じ地域に停滞し,強い降水を持続的にもたらすものです.
短時間に発達するため予測は難しく,台風のように何日か前から場所を特定して予報することは困難です.7月4日に球磨川を氾濫させた豪雨は,直前まで正確な予測ができていませんでした.未明の記録的短時間大雨情報や避難指示は,予測の難しさと事態の深刻さを物語っています.
このような集中豪雨の頻度は明らかに高くなりました.線状降水帯による集中豪雨は,日本のどこでも起こりえます.自分が経験したことないような豪雨や,それに伴う河川氾濫や内水氾濫に,どのように備えていけばいいでしょうか.
ここではお役立ちサイトを中心に,ご紹介していきます.
ハザードマップを確認!
まずは自分の住んでいるところのハザードを確認しましょう.
自治体がウェブサイトで公開しているハザードマップを検索してみてください.国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」からも簡単に見ることができます.
今後の気象状況は?
今後の気象状況の予報は,お好きなお天気アプリで確認してください.気象庁の「今後の雨」サイトでは15時間後までの雨雲の動きを見ることができます.
どんな情報が発表される?
大雨が続くような場合は,気象庁から「防災気象情報」が出ます.大雨警報・大雨特別警報/氾濫危険情報・氾濫発生情報/土砂災害警戒情報,などの情報です.
これらの情報を元に,自治体から「避難情報」が発表されます.避難準備・高齢者等避難開始/避難勧告/避難指示(緊急)です.
2019年から,これらを数字でラベル付けして,5段階で運用されるようになりました.なお,レベル5は既に災害が起きているような状況なので,レベル4までに避難を完了してください.
河川の状況を確認
河川の状況は国土交通省の「川の防災情報」というポータルサイトが便利です.浸水の危険性が高まっている河川の一覧や,河川カメラ,気象警報の一覧などがトップページに並んでいます.河川の様子が不安な場合は,直接見に行くのではなく、このページを使ってみてください.
他人事ではありません!
さて,これらは他人事ではありません.あなたにも起こることです.どのような備えが必要か,避難所はどこか,どんな状況になったら避難するか,決めておきましょう.
便利な情報リンク集
自宅まわりのハザードを確認しよう
気象庁「危険度分布(洪水)」
気象庁「危険度分布(土砂災害)」
気象庁「危険度分布(浸水害)」
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
今後の雨雲の動きは?
気象庁「今後の雨」
今の河川の状況は?
国土交通省「川の防災情報」
警戒レベルってなに?
NHK「5段階の大雨警戒レベル」
気象庁「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」
Tips
日本気象協会「トクスル防災情報 水害・河川氾濫編」
【宮本研究会 参考文献】
小倉義光, 2017: 一般気象学,第2版補訂版,一般財団法人東京大学出版会, 308p.
津口裕茂, 2016: 線状降水帯, 天気(新用語解説),
https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2016/2016_09_0011.pdf,(参照2020-7-8)
瀬古 弘, 2010: 中緯度のメソ βスケール線状降水系の 形態と維持機構に関する研究.気象庁研究時報, 62, 1- 74.
ウェザーニューズ,集中豪雨をもたらす線状降水帯とは?,https://weathernews.jp/s/topics/201707/070145/,(参照2020-7-8)
Examee,【中2理科】日本の天気に影響を与える4つの気団,https://exam.fukuumedia.com/rika2-52/,(参照2020-7-8),(参照2020-7-8)
お天気.com,湿舌とは?,https://exam.fukuumedia.com/rika2-52/,(参照2020-7-8),(参照2020-7-8)
気象庁ホームページ (https://www.jma.go.jp/jp/g3/)「天気図(実況・予想)」(気象庁ホームページより),(参照2020-7-7)
気象庁ホームページ (https://www.jma.go.jp/jp/gms/large.html)「気象衛星」(気象庁ホームページより),(参照2020-7-7)
気象庁ホームページ (https://www.jma.go.jp/jp/metcht/kosou.html)「高層天気図」(気象庁ホームページより),(参照2020-7-7)
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